
劇場には、放送局からいろいろな中継収録の方がいらっしゃいます。今回はそのお話。 中継収録が入る、という連絡をもらうと、我々はまず、「報道なのか制作なのか」という確認をとります。 それによって対応が変わるからです。 報道ならENG。カメラはバッテリーを積んでいるので電源供給の必要はないし、マイクも付属マイクを使用するか、1〜2本持ち込んで来るだけです。公演前にロビーや楽屋でインタビューを取るだけか、或いはその後本番を最後列で数分カメラに収めるだけで引き上げていきます。 こちらがする仕事は禁止行為の確認だけです。 これが制作になると、こちらも大変です。 事前の打ち合わせ、下見をしていただかないと対応しきれません。 電源車、中継車の駐車場所、音声、映像ケーブルの配線経路、カメラのセッティング位置、マイクのセッティング位置、公演によっては館内に音声のミキシングルームを設営し、164回線を頭分けして8トラック、若しくは16トラックにミキシングして中継車に送る事も、よく行なわれます。 ある劇場での、日舞の公演でのこと。 ある放送局が中継収録にやってきました。 収録の仕込みの最中に、アルバイト君が土足で所作の上に乗ってしまったのです。 劇場の音響さんがすっ飛んできて、いきなりボカーンとブン殴ると、 「バカヤロー!所作の上は神様が降りられる所だ!土足で上がる奴があるか!」 恐らくは所作と平台の区別もつかないバイト君は、訳も分からずブンむくれています。 放送局のチーフが飛んできて、「すみませんでした、教育が到りませんで」と平謝りでバイト君の首根っ子をつまんで、連れていきました。 恐らく、そのチーフはご存知なのです。 その音響さんは、バイト君を救うためにブン殴ったということを。 ここで音響さんがブン殴らなかったら、舞台さんのナグリがうなりをあげてバイト君に飛んで来たでしょう。殴られたではすまない怪我をしてしまいます。 それだけのことをしてしまったのですから文句は言えないのですが、音響さんに殴って貰って助かった、ということをバイト君はその後学んだのでしょうか。 そうであることを祈ります。 あるホールでの、合唱とオーケストラの公演でのことです。 地元のFMラジオ局が収録に来るとの連絡がありました。報道ではなく制作、ということで、主催者側も音響さんに対応をお願いしています。音響さんは、収録側との事前の打ち合わせがないので、取りあえず三点吊り回線の頭分けの準備だけ済ませました。 放送局から来たのは若い女性のディレクター一人きり。エアモニタも必要なく、ミキシングもせず、持ち込みマイクを立てることもせず、三点吊りを分けていただけるだけで充分です、とのこと。 はあ、音楽番組なのに簡単なんだなあ、と思いながら回線を送ろうとしていると、その女性のバッグから出てきたのはDATウオークマン。 「ミニステレオなんですけど」って、ねえよそんなコネクタはよ。結局、音響さんの私物の変換プラグで解決したそうです。 機械にまるっきり疎いそのディレクターさんが可哀相です。送り出した局の技術の人達も、もう少し考えてあげればいいのに。 心ある技術員のいる劇場なら、RCAまでなら変換が出来るようになっています。そこから先は、劇場に来る途中でディスカウントショップにでも寄り道してきて下さい。700円位で変換が売ってます。 新しく出来たホール、劇場が軒並み抱えている問題があります。それは、電源に乗ってくるノイズです。 原因はどこも、地下鉄が建物のすぐ傍を通っている為で、こればっかりは立地条件とのからみもあり、避ければいいというものではありません。また、建物の完成時には地下鉄がなくても、完成後、地下鉄が通ることになる、ということもあります。 しかし、地下鉄がすぐそばを通り、地下鉄から劇場、ホールへ通路がつながっているというのは、お客様にしてみれば、雨に濡れずに来場できる、そして冬も寒くない、ということから、絶好の条件です。そういう劇場は評判が良くなるので、痛しかゆしです。 某劇場では、電源クリーナーを買い込んで中継収録に備えることにしました。傷口に絆創膏を貼るような、何だか抜本的でない対処法ではありますが、収録に来た方々には、劇場側の誠意は伝わったそうです。 しかし、抜本的対策が講じられない故に劇場側と収録側が歩み寄り、気持ちが通じあって協調性が増す、というのも、しわ寄せを現場レベルで処理して仲良くなった、という話で困ったものですね。