舞台公演での音響やコンサートのSRの世界で今、システムチューナーという言葉が定着しつつあります。
主にアウトプットのシステムを調整し、最終的なスピーカの音色をチューニングして、デザイナーやオペレータに引き渡すポジションの仕事、及びその仕事を行う人のことを、そう呼んでいます。
音響が、昔のアナログの時代のような、物理の工作の延長線上にあったような、プロとアマチュアの境界線が曖昧だった時代とは全く違う、新しい時代に突入したことを象徴するポジションだと思います。
昔のように、機材を買い揃えてつなげば音が出る、あとは適当に自分の好みに合わせて音質を調整すればいい、全く乱暴に言えば20年前まではそれで済んでいた現場も日本中を見渡すとそこかしこにあった訳です。
現在は全くそういう訳にいきません。機材の天板を開けても中はブラックボックスばかり、どこも触りようがありません。スピーカの音色はスピーカで決まるのではなく、スピーカをコントロールするプロセッサで決まります。
理論は高度に複雑になり、調整も高度に複雑になり、そして出音もまた高い目標に到達できるようになりました。
しかし、このような時代になってもまだ、昔と同じ仕事のスタイル、仕事の進め方をしていたのでは、機材の高い能力を活かし切ることはできませんし、結果として、得られるはずの高いレベルを手に入れることもできないままになってしまいます。
例えば私がよく携わるミュージカル公演を例にとってみましょう。
劇場への搬入・仕込みの日。音響の仕込みチームは劇場へ機材を搬入し、セットアップし、舞台や照明の予定とすり合わせながらサウンドチェックの時間をもらい、出音を作ります。
この頃、稽古場では、音響デザイナーとワイヤレスマイクのオペレータは稽古場での最後の稽古に参加しているのです。
音響のチーフたるデザイナーは劇場への搬入・仕込みには立ち会っていないのです。
稽古場での最後の稽古が終る頃、稽古場へ稽古場機材のバラシ撤収チームが到着します。撤収チームは稽古場に仕込んだ音響機材をバラして音響会社へ帰ります。音響デザイナーは、ワイヤレスのオペレータと共に、ワイヤレスマイクのオペレートデータを記憶したメモリを持って劇場に向かいます。
つまり、劇場への搬入・仕込みの日は、音響チームは、劇場への仕込みチーム、デザイナーとワイヤレスオペレータの稽古場チーム、稽古場機材のバラシ撤収チームの合計3チームがそれぞれ別個に動いているのです。そしてシステムチューナーは、劇場への仕込みチームに属している訳です。
稽古場から音響デザイナーが演出家や音楽監督やワイヤレスオペレータと共に劇場に到着するのが、大体20時頃。劇場の仕込みチームはその時までに仕込みを終わらせ、システムチューナーは出音をチューニングし終えてデザイナーの到着を待つ訳です。
昔はチーフが何もかも全部自分でやり、またそうでないと気が済まない人が沢山いました。
でも現在は、そんなことを言っていたら何も始まらない、何も決まらない、ちっともいい結果が出ない、そういう時代になったのです。
システムだけでなく、公演の中身も、公演の音響に対する要望や求められる水準も、より高度に複雑になってきました。もう、一人の腕利きの音響さんでどうにかなる時代ではなくなったのです。
デザイナーが何でもやる時代ではなくなりました。デザイナーが何でもできるスーパーマンである必要もないのです。
よりシステマチックに仕事を行わなければ、舞台音響はその目的を達せない時代になったのです。
その端的な存在、象徴的なポジションが、システムチューナーなのです。
なればこそ、システムチューナーというポジション、またそれを行う人の重要性は非常に高く、それはもっと認知されもっと高い評価を受けてしかるべきだと、私は思うのです。
音響チーフは、自分でしゃかりきになってチューニングのスキルを上げるのではなく、システムチューナーのギャラ、技術料の枠を確立させ、しっかりお金を取ってくる、そこにこそ労力をかけるべきなのです。
技術はたたではありません。他の人の技術を尊重せず、お金を払うことを惜しめば、必ず自分の技術も低く安く叩かれます。
時々ですが、公演の音響チームが、新しいスピーカを搬入して、そのシステムのチューニングを、そのスピーカを販売している会社の技術や営業にやらせて、チューニング料を支払う訳でもなく、平気な顔をして「はいご苦労さん」とやっているのを見かけることがあります。呆れ返ってものも言えません。
次回、私が普段懇意にさせていただいているシステムチューナーの方々のお話をさせていただきます。その中からシステムチューナーの姿、大切さが浮き上がってくれば、と願っております。
(石丸耕一 音響演出家 www.lunadfuego.com)