
前回の、音で空間をイメージしてもらう、というお話の続きです。
映像の音が、緻密に絵を描いていく油絵だとしたら、舞台の音は、一閃、颯ッと筆を走らせる日本画の様なものかも知れません。 ウグイスの谷渡り、という演出があります。 私が、先に、舞台の音は、一閃、颯ッと筆を走らせる日本画の様なものと申し上げたニュアンスが、この例でお分かりいただけますでしょうか。 このように、舞台の音は、客席の後ろから舞台の奥までを1つの空間として、その空間にどのように音でイメージの絵を描くか、というのが本質であり、その意味では舞台音響は、電気のない時代から、舞台音響とはそもそも立体音響のことだ、ということを、このエッセイでも再三申し上げてきました。 この15年〜20年程、いわゆるテレビで育った世代が舞台を作る立場になって、演出や脚本、出演者からの音響に対する要求が、とてもテレビ的と言いますか、テレビのバラエティー番組で行われているような笑いを誘うタッチ音のSEや、ベタッと平面的な大音量を求められ、音響さんも唯々諾々とそれに応じ、その結果、舞台と客席の間に音のブラウン管が空間を遮蔽しているような、そんな舞台音響が蔓延しかけました。 ところがここへきて、家庭でDVDやゲームソフトのサラウンド対応が増えてきて、一般のお客様、特に若い世代が、音がどこから聞こえてくるのかということを強く意識する傾向が出てきました。 ともあれそれは、若い世代からすれば、自分たちの感覚にマッチした、従来とは違う新しいウェーブと感じているようですが、私達からすれば、本来のあるべき姿に回帰してくるといったところで、ですがいずれにしましても喜ばしい事だと思います。 それが、ただ巡り巡って元に戻るのではなく、そこにどんな新しい演出と、それを具現化するどんな新しい技術を伴って、ただの回帰にとどまらない、新しいウェーブにしていくのかが、私達の研究すべきポイントであり、そうするのが先人から受け継ぐ私達の義務であろうと考えます。 私の周りでも今年、有志が集まって、実験会を行う準備を進めています。 そしてこれからまた10年、更に次の10年、劇場という閉じられた空間のキャンパスに、無限の広がりを生み出すために、どんな画材を使ってどんな絵を描くか、トライを続けていきたいと思っています。 |