ローランドPAクリニック講義概要 ここ10数年を振り返っても、技術の進歩は目覚しく、特にデジタルの技術によって、プロでない人も、プロ顔負けの音を出すことが出来る機材を、しかも安価で手に入れることが出来るようになりました。 でも、だからと言って、プロでない人がプロと同じようにPAが出来るかというと、どうもそういう訳には行かないようです。失敗したり、ミスを犯したり、トラブルが起きてしまったりします。 一体、何が足りないんでしょう? プロの世界でも同様です。技術が進んだからと言って、トラブルが減ったか、と言えば、そういう訳でもありません。また、それとは別の問題も新たに起き始めています。 出演者、特にミュージシャン、演奏家、歌手といった人達からの、音響さんへの、PAへの、不信感です。 この問題が一部で深刻であることは、ミュージシャン側も認めています。また、トップの音響さん達も、こういう問題が事実であることを認めています。 どういう不信感かというと、「自分たちの音を、あいつらは勝手にいじって、歪めて、{俺の音だ}という顔をする。冗談じゃない、自分たちの音だ。」ということです。 こういう問題を逆手にとって、ミュージシャンが、キチンと演奏しなかったり、うまくいかなかった時に、演出家やプロデューサーに咎められると、自分のミスを棚に上げて「PAさんがトチッたんじゃないですか?」ととぼけることも、ごくごく稀にあるそうです。 どうして、こんなことになってしまったんでしょう? これらのことを考えていくと、PAの、プロもアマも関係なく、本当に必要なことが見えてきます。 そしてきっと、今、それが欠けているからこそ、いろんな問題が起きているんだと思います。 その、「何が本当に大切なのか」ということを、これから実際に機材を使いながら、皆さんと操作をしながら、お話していきたいと思います。 まず、PAとは、音響とは何だろう、ということを考えましょう。 音響→「演出」 何らかの意図があって音が出され、何らかの目的があって音が消されていく演出のない音響は音響ではない ただの音の垂れ流しどんなにテクニックが上手くても機械のことを知ってても、二次的なものそれらはみな演出を具現化するための手段にすぎない演出がなければ技術も知識も何の意味も持たない じゃ、演出って、何? 音は 人を幸せにできる 実際に命が奪われなくても肉体に大きなダメージを与えたり、心が死んでしまうことは幾らでもある そして 願わくば 自分の出す音で 一人でも幸せになったり、いい気持ちになったり、楽しくなったりしてほしい これが音響の 始まりであり、全てである(アルファでありオメガである) PAとは、音響とは、「演出」ですよ、「演出」とは、心配り、思いやりですよ、つまりPA、音響とは、音で人を思いやることですよ、ということがわかったので、あとは、「じゃあそのために何が大切なのか」を考えればいい、ということになります。 普通、コンサートやお芝居は5千円かそれ以上かかるでしょう。プレステやセガサターンなどのゲームソフトもそれ位、音楽CDだったら2枚は買えてしまいます。 でも、形あるものはいつかは壊れますが、コンサートやお芝居、イベントで、本当に素晴らしい、心が震える想いをしたならば、その感動は、一生、その人の心に残って無くなることはありません。 私たちは、そういう時間をお客様に届けようと頑張っている訳です。それは、音響さんだけが頑張って出来るものではありません。 出演者、舞台・照明スタッフみんなで作るものです。 人が、人と、人を感動させようというときに、送る側の人同士が、意志の疎通がとれていなかったり、信頼しあえなかったりして、どうやって人を感動させることができるでしょう。 まず、何よりも、一緒にステージを作っていく人間同士のコミュニケーションが大切です。 つまり、思いやり、心配りを現実のものにするのは、コミュニケーションです。 ・出演者とのコミュニケーション ・スタッフとのコミュニケーション テクニック、とは、何でしょう。 音響という、さして古くもない歴史の中で、それでも私達の先達が、お客様と、出演者・歌手・演奏者と、届けたい音を前にして、「どうやったらこの音を、少しでも豊かに、幸せに伝えられるだろうか」と、手持ちの機材を眺めながら、試行錯誤を繰り返してきた蓄積が、現在、テクニックとして、私達に伝えてもらっているものです。 では、私達が、先達から本当に受け継がなければならないものとは、「この楽器にはこのマイク」とか、「この楽器にはこのエフェクターをこう使うんだ」といった表層的なことではなく、私達がお客様と出演者と、音を前にして、「どうしたらみんなが幸せになれるだろうか」と模索する、その姿勢そのものだと思います。 それさえあれば、経験のあるなしに関わらず、自ずから、その時その場限りの、「正解のテクニック」が見えてくるのです。 逆に、どんなに経験を積んでも、「こういう時はこういうやり方で決まってるんだ」というような、観念的なものの考え方しかできない人が、最初に話したような、ミュージシャン達から不信感を抱かれてしまう様な仕事をしてしまうのです。 私がテクニックを否定し、テクニックなるものを教えてくれと言われるのを拒むのは、そういう訳なのです。 別にしんからテクニックを否定している訳ではなく、テクニックというものが観念に摺り替えられかけている昨今に、安易にテクニックについて話をすることが、メリットよりも、デメリットや危険を孕んでいる要素が多いと思うからです。 当然のことながら、私だって、先達から伝授してもらった「テクニック」の恩恵を受けています。でもそれ以上に、テクニックが生まれるに至るまでの「思いやり」を、受け継いだ、受け継いで行こう、そしてそれを忘れまい、という、決意があるという大前提の上でのことなのです。
〜1998年5月〜8月 ローランドPAクリニック全国ツアー〜
PAとは何か、音響とは何かが分かれば、そのために何が大切なのかが分かってきます。
自分は今、誰に、どんな音を聴かせようかと、考えているか、ということ
相手→客、出演者、スタッフ、主催者→いい音をサービスしようということつまり演出とは「思いやり」
ここがアマチュアのオーディオと音響の決定的な違い
オーディオは自分の楽しみ、自分の自己満足のために音を出す
音響は、自分でない他者のために音を出す
卓についてドーンと音を出して「どうだ俺の音はすげぇだろうカッコイイだろう」
こんな人は腕がいいとかうまいとか以前の問題
卓の前に座る資格なし
音で 人が殺されることもある
私たち、音を扱い、音を操る立場の人間は、
その影響力の大きさに常に畏れを抱くべきである
それだけのお金を取って、2時間あまりを座席で過ごして、後に何も形に残るものはありません。
どう考えても、ゲームソフトや音楽CD等の、形に残るものの方がお得に決まってます。
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